カテゴリ1(購入した製品・サービス)は、多くの企業でScope3排出量の最大カテゴリです。TANSOが収録する日本企業のうち、最大カテゴリがカテゴリ1という企業は253社と最多で、開示社数も413社に上ります(カテゴリ1のランキング)。この記事では「購買金額×排出原単位」という式の先にある、実際の業務フローを5つのステップで解説し、環境省の排出原単位データベース(産業連関表ベース)を使った計算例を示します。
全体フロー
- 購買データの抽出
- 集計単位の整理(勘定科目・品目)
- 排出原単位とのマッピング
- 算定・検証
- 算定根拠の記録
初年度は1〜3に工数の大半がかかります。式そのものは単純で、排出量 = 品目ごとの購買金額 × その品目に対応する排出原単位、をすべての品目で合計するだけです。難しいのは「品目ごとの購買金額」を作る工程と、「対応する原単位」を選ぶ工程です。
STEP 1|購買データの抽出
データソースは会社によって異なります。優先順位は次のとおりです。
- 購買システム・ERP — 品目単位のデータが取れる場合は最優先。品目コード・仕入先・数量・金額が揃うため、後の物量ベースへの移行にも使えます
- 会計システムの仕訳データ — 勘定科目・補助科目単位で集計。原材料費・外注費・消耗品費・広告宣伝費・支払手数料など、費用科目を横断して抽出します
- 支払データ — 上記が難しい場合の代替。仕入先ごとの年間支払額から、仕入先の業種で原単位を当てます
抽出時のポイントは、対象期間(会計年度)、対象範囲(連結/単体)、金額の税抜き統一の3点を最初に決めることです。金額は税抜きと税込みが混ざると原単位の前提と合わなくなるため、どちらかに統一し、原単位側の前提(購入者価格)との関係をデータベースの注記で確認します。抽出条件(システム名・期間・科目・抽出日)はSTEP 5の記録に直結するので、抽出したその場でメモに残します。
STEP 2|集計単位の整理
金額ベース(二次データ)で算定する場合、購買データを排出原単位の分類に対応付けられる単位に集計します。実務では勘定科目×品目分類のマッピング表を作るのが定石です。
このとき、カテゴリ1の対象外(エネルギー費=Scope1・2やカテゴリ3、輸送費=カテゴリ4、など)を除外する仕分けルールも同時に定義します。よく迷う仕分けは次のとおりです。
| 費目 | 扱い |
|---|---|
| 原材料・部品・商品仕入 | カテゴリ1 |
| 外注加工費・業務委託費・広告費・ソフトウェア利用料 | カテゴリ1(サービスも対象) |
| 電気・ガス・燃料 | Scope1・2、上流分はカテゴリ3 |
| 運賃・倉庫料 | カテゴリ4 |
| 設備・建物などの固定資産 | カテゴリ2(資本財) |
| 出張旅費・通勤手当 | カテゴリ6・7 |
見落としやすいのは、外注・広告・情報サービスといったサービスの購入もカテゴリ1の対象である点です。モノの仕入だけを集計すると、製造業でも間接材・サービス分が抜けます。除外した金額は捨てずに「どのカテゴリへ振り替えたか」を残します。購買総額から算定対象額を引いた残りが説明できることが、STEP 4の検証の前提です。
STEP 3|排出原単位とのマッピング
環境省・経産省の排出原単位データベースなど、公的なデータベースの原単位を品目分類ごとに対応付けます。金額ベースの算定で使うのは、産業連関表ベースの原単位(表5・産業連関表2005年表)です。407の部門ごとに、購入者価格ベースの金額1百万円当たりの排出量(t-CO2eq/百万円)が示されています。Ver.3.6では2020年表ベースの参考値(表5-2)も追加されました。本算定には2005年表の値を使い、参考値は感度確認に使う、と役割を分けて記録しておくと、翌年に版が変わったときの説明が楽になります。
品目名と部門名は一致しません。マッピングは「自社の品目分類 → データベースの部門」を一度作り、翌年も同じ表を使います。ここで重要なのは、「どの品目に・どの原単位を・なぜ選んだか」を記録に残すことです。翌年度の算定の再現性と、開示時の説明可能性に直結します。数量(重量・個数)が分かる主要原材料は、物量当たりの原単位(表4・積み上げベース)で計算する方が精度が上がります。データベースの構成と使い方は排出原単位データベースの使い方で解説しています。
STEP 4|算定・検証
算定自体はExcelでも可能です。まず計算例を示します。
計算例 — 産業連関表ベースの原単位を使う
ある企業の間接材・サービス購買の一部を、表5の購入者価格ベースの原単位(Ver.3.6、t-CO2eq/百万円)で計算します(購買額は仮想の例)。
| 品目(対応部門) | 年間購買額 | 原単位 | 排出量 |
|---|---|---|---|
| 事務用品 | 10百万円 | 5.4 | 54.0 t-CO2eq |
| 洋紙 | 5百万円 | 11.1 | 55.5 t-CO2eq |
| 印刷・製版・製本 | 20百万円 | 3.0 | 60.0 t-CO2eq |
| 広告 | 50百万円 | 1.9 | 95.0 t-CO2eq |
| 情報サービス | 100百万円 | 1.0 | 100.0 t-CO2eq |
| 労働者派遣 | 30百万円 | 0.15 | 4.5 t-CO2eq |
| 合計 | 215百万円 | — | 369.0 t-CO2eq |
計算は、事務用品なら 10百万円 × 5.4 t-CO2eq/百万円 = 54.0 t-CO2eq、という掛け算の繰り返しです。この例が示すのは、金額の大きさと排出の大きさは一致しないということです。情報サービスは購買額が最大ですが排出は全体の3割弱、洋紙は購買額が最小クラスなのに事務用品と同程度の排出になります。原単位が大きい品目(紙・セメント・電力などの素材・エネルギー系)は、金額が小さくても優先して精度を上げる対象です。
検証では次を確認します。
- 購買総額と算定対象額の差分(除外分)を説明できるか
- 前年比で大きく変動した品目の要因(購買量か、原単位変更か)。Ver.3.5からVer.3.6では17シート・1,300セルが変更されており、原単位の版が変われば活動量が同じでも数字が動きます
- 上位品目が排出量の大半を占める構造になっているか(パレート確認)。上位の品目・仕入先を並べ、翌年の一次データ化の候補にします
STEP 5|算定根拠の記録
最低限、次の項目を毎年同じ形式で残します。
| 記録項目 | 内容 |
|---|---|
| データ出所 | 抽出元システム・抽出条件・抽出日 |
| 集計ルール | 科目マッピング表・除外ルール |
| 原単位 | 使用DB・バージョン・適用先 |
| 担当・承認 | 作成者・レビュー者・承認日 |
この表は、SSBJ基準で求められる「算定の推論過程と社内手続の記載」の素材にそのまま使えます。翌年に担当者が替わっても同じ数字を再現できることが、記録の合格ラインです。
つまずきポイント
- 品目コードが拠点ごとに違う → 初年度は勘定科目レベルで統一し、品目レベルの統一は主要原材料から順に進める
- 仕入先の業種でしか分けられない → 仕入先ごとの主要納入品で部門を当て、前提を記録する。金額上位の仕入先だけ品目レベルに分解する
- 海外からの購入 → 国内の産業連関表ベースの原単位で代用し、その旨を記録する。海外データベースの一覧は排出原単位データベースの海外DB一覧を参照
- 税込み・税抜きが混在 → STEP 1で統一する。統一できなかった範囲は誤差の要因として記録する
次のステップ:一次データへ
金額×原単位の算定では、サプライヤーの削減努力が反映されません。排出量上位のサプライヤーから順に、一次データ(サプライヤー実測値)の取得へ移行していくのが次のテーマです。順番は、金額ベースの全体算定で上位品目・上位仕入先を特定し、物量データが取れる原材料を積み上げベースへ、主要仕入先を一次データへ、と置き換えていきます。置換率(排出量ベースで一次データが占める割合)をKPIにすると、進捗が社内で共有しやすくなります。
ポイント: カテゴリ1の算定は、購買データの抽出・品目マッピング・原単位マッピング・計算・根拠管理の5ステップ。金額ベースなら産業連関表の購入者価格ベース原単位を使い、金額の大きさと排出の大きさは一致しないことを計算例で確認する。初年度は勘定科目レベルで全体の桁をつかみ、原単位の大きい素材系の品目と上位仕入先から精度を上げていく。