カテゴリ11(販売した製品の使用)は、売った製品が顧客の手元で使われる間に出す排出です。自動車・電機・機械メーカーではScope3の大半を占め、当データベースでも自動車業界の「最大カテゴリ」はほぼCat.11です(分析04章)。この記事では、直接/間接使用段階排出の判定、業種別の算定パターン、数値入りの計算例、シナリオ感度の示し方、そして削減側の打ち手までを解説します。
算定の基本式
年間販売台数 × 生涯使用シナリオ × 使用時のエネルギー消費 × 排出係数。つまり「今年売った製品が、これから寿命を迎えるまでに出す排出」を今年の排出として一括計上します。将来の排出を前倒しで背負う構造のため、数字は巨大になります。販売が伸びれば排出も増える一方、製品の効率改善が翌年度の数字に直接効く — 製品戦略がそのまま現れるカテゴリです。
直接使用段階排出と間接使用段階排出 — まず判定する
- 直接使用段階排出(算定必須) — 製品がエネルギーを直接消費して出す排出です。3タイプに分かれます: (1)燃料・電力を消費する製品(自動車、家電、産業機械)、(2)使用時に燃料となる製品(石油・ガスなどエネルギーそのものを売る場合)、(3)使用時に温室効果ガスを放出する製品(冷媒入り機器、消火剤など)
- 間接使用段階排出(任意) — 製品自体はエネルギーを消費しないが、使用に付随して排出が生じるもの。衣類(洗濯・乾燥)、食品(調理・冷蔵)、鍋・食器(加熱・洗浄)が典型です。算定は任意ですが、含めるかどうかで他社比較が崩れるため、含めた場合はその旨を明記します
自社製品がどちらに当たるかで、算定義務の重さがまず決まります。エネルギーを消費しない部材・素材(ネジ、樹脂ペレットなど)を売る企業は、Cat.11ではなくCat.10(顧客側の加工)や最終製品側の整理になることが多く、「該当なし(理由つき)」の判断もありえます(15カテゴリ解説)。
業種別の算定パターン
| 業種 | 式の型 | 鍵になる前提 |
|---|---|---|
| 自動車 | 販売台数×生涯走行距離×燃費(電費)×燃料・電力係数 | 生涯走行距離、仕向地の電力係数(EV) |
| 家電 | 販売台数×年間消費電力量×使用年数×電力係数 | 使用年数、稼働率、販売国の電力係数 |
| 産業機械 | 販売台数×定格出力×年間稼働時間×負荷率×使用年数×係数 | 稼働時間と負荷率(顧客の使い方で数倍動く) |
| ソフトウェア | 後述(提供形態で扱いが分かれる) | SaaSかオンプレか |
自動車の計算例(仮想の数値例)
ガソリン車を年間1万台販売、生涯走行距離を年1万km×13年=13万kmと置きます。燃費15km/Lなら生涯燃料は約8,667L/台。ガソリンの係数を概算で1Lあたり2.3kgCO2程度(最新値は環境省データベースの燃料法のシート参照)とすると、1台あたり約20tCO2。1万台で約20万tCO2です。工場のScope1・2が数万tの企業でも、Cat.11がその数倍〜十倍になる構造が分かります。EVの場合は「電費(kWh/km)×走行距離×仕向地の電力係数」に置き換わり、排出は電力グリッド次第で大きく変わります。
家電の計算例(仮想の数値例)
エアコンを年間10万台販売、年間消費電力量800kWh/台、使用年数10年、電力係数を概算0.45kgCO2/kWh(実際は販売国・年度の最新値を参照。海外分は世界の電力原単位が使えます)とすると: 100,000台×800kWh×10年×0.45kg = 約36万tCO2。省エネ性能を10%高めた新機種に置き換われば、翌年度の計上は単純計算で約3.6万tCO2減る — 製品開発の成果が直接見える計算です。
産業機械のポイント
顧客の使い方(稼働時間・負荷率)で排出が数倍変わるため、代表的な使用プロファイルを機種群ごとに設定し、その根拠(顧客調査、稼働データ、業界の標準的な想定)を開示するのが実務です。IoTで稼働データを取得している企業は、実測ベースのシナリオに更新することで精度と説得力が一気に上がります。
ソフトウェアの整理
SaaSとして自社のサーバー・クラウドで動かすなら、その電力は自社のScope2やカテゴリ1・8側の整理になり、Cat.11ではありません。顧客のサーバーやPCで動くオンプレミス型・パッケージ型は、顧客側での実行に伴う電力消費がCat.11に該当し得ます(実行環境の消費電力×稼働時間×電力係数で推計)。境界の整理を算定方針書に明記することが数字より先です。
シナリオの置き方が数字を決める
| 前提 | 例(自動車) | 例(家電) |
|---|---|---|
| 使用年数 | 10〜15年 | 7〜10年 |
| 使用量 | 年間走行距離(例: 1万km) | 年間稼働時間・使用回数 |
| エネルギー | 燃費・電費 | 定格消費電力×稼働率 |
| 排出係数 | ガソリン係数/各国の電力係数 | 販売国の電力係数 |
同じ製品でも前提次第で数倍変わるため、前提の開示が数字そのものと同じくらい重要です。業界団体の標準シナリオがある場合はそれに揃えると比較可能性が上がります。
シナリオ感度の示し方
前提が数字を支配するカテゴリだからこそ、開示・社内報告では感度を添えるのが誠実です。実務では次の形が使いやすいです。
- 主要前提の一覧表を開示する — 使用年数・使用量・排出係数の値と出典を表で示す。前提を変えた年は「シナリオ変更による増減」と「実力の増減」を分けて説明する
- 感度表を作る — 例えば上のエアコンの例で使用年数を8年/10年/12年と振ると、計上は約29万/36万/43万tCO2と動きます。「±20%の前提変動で結果が±20%動く」ことを示せば、経営層も監査人も数字の性質を正しく理解できます
- 係数の将来シナリオは区別する — 電力係数を「現在の値で固定」するのが基本形です。将来の電源構成の低炭素化を織り込んだシナリオを併記する場合は、必ず本体計上と区別して示します
- 販売構成の変化を分解する — EV比率や省エネ機種比率の変化による減少は、削減施策の効果として分解して見せると、製品戦略の進捗報告としてそのまま使えます
削減側の打ち手 — EV・省エネ製品の効果が現れる場所
Cat.11は製品設計そのもので決まるため、削減=製品戦略です。打ち手は次の階層で整理できます。
- エネルギー効率の改善 — 燃費・電費・待機電力の改善。翌年度の販売分から確実に効く、最も直接的なレバー
- エネルギー源の転換 — 電動化(内燃→電気)、燃料転換。電動化しても使用電力の排出は残るため、電力係数の低下(社会の再エネ化)と製品効率の両方が効いてくる構造です
- 使われ方への働きかけ — 省エネモードの初期設定化、稼働最適化サービス、適切な保守による効率維持。IoT機器では遠隔での効率改善も打ち手になります
- ビジネスモデル側 — 長寿命化・アップグレード対応は「販売台数×生涯排出」の構造自体に働きかけます。なお、省エネ製品への置き換えによる社会側の削減貢献は「削減貢献量」という別の指標で、自社Scope3の減少とは区別して扱います(削減貢献量の解説)
ポイント: Cat.11は「将来の排出の前倒し計上」。まず直接/間接の判定と境界整理を行い、業種別の式に前提を明示して当てはめる。シナリオ前提の開示と感度の提示がなければ数字は読めないし、比較もできない。削減の主戦場は製品戦略そのもの。