Scope3の15カテゴリを前に「全部やるのか…」と圧倒される必要はありません。実務の鉄則は大きいところから、取れるデータで。この記事では、まず全体マップで仕分けし、続いて15カテゴリすべてについて「定義・含まれるもの/含まれないもの・データ源・算定式の型・業種別の重要度」を一気に解説します。最後にスクリーニングの実務手順をまとめます。前提知識はScope1・2・3の基礎をどうぞ。
15カテゴリ実務マップ
| # | カテゴリ | 主なデータ源 | 実務メモ |
|---|---|---|---|
| 1 | 購入した製品・サービス | 購買・会計データ | 多くの企業で最大。金額×原単位から始める |
| 2 | 資本財 | 固定資産台帳 | 設備投資の多い年に跳ねる |
| 3 | 燃料・エネルギー関連 | Scope1・2の元データ | Scope1・2が算定済みなら半自動 |
| 4 | 輸送・配送(上流) | 物流費・輸送記録 | 個別解説。省エネ法の荷主データを流用可 |
| 5 | 廃棄物 | マニフェスト | 量は小さいがデータは取りやすい |
| 6 | 出張 | 経費精算 | 旅費データ×原単位で簡単 |
| 7 | 通勤 | 通勤手当 | 同上。まず概算でよい |
| 8 | リース資産(上流) | リース契約 | 該当なしの企業も多い |
| 9 | 輸送・配送(下流) | 販売物流 | 他社負担分。データ入手が難しい |
| 10 | 販売した製品の加工 | 顧客の加工情報 | 素材メーカー以外は小さいことが多い |
| 11 | 販売した製品の使用 | 製品仕様×使用シナリオ | 自動車・電機では最大。個別解説 |
| 12 | 販売した製品の廃棄 | 製品重量・素材構成 | Cat.11とセットで算定 |
| 13 | リース資産(下流) | 賃貸物件データ | 不動産業で大きい |
| 14 | フランチャイズ | FC店舗データ | 小売・外食のFC本部のみ |
| 15 | 投融資 | 投融資ポートフォリオ | 金融機関の本丸。PCAF解説 |
上流カテゴリ(1〜8)— 自社より川上の排出
カテゴリ1: 購入した製品・サービス
定義: 購入した原材料・部品・商品・サービスの、採掘から製造・納入までの排出。含まれる: 原材料、部品、包装材、外注加工、清掃・ITなどのサービス調達。含まれない: 設備の購入(→Cat.2)、燃料・電力(→Cat.3)、輸送費として独立把握できる分(→Cat.4)。データ源: 購買データ・会計の勘定科目別支出。算定式の型: 金額ベースなら「品目別支出額×金額あたり原単位」、物量ベースなら「調達量(t)×物量あたり原単位」。原単位は環境省の排出原単位データベース(現行はVer.3.6)の最新値を参照します。TANSOでは産業連関表ベースの表を部門名で絞り込んで引けます(データベース全体の解説)。重要度: 製造業・小売・食品ではほぼ最大カテゴリ。まず金額ベースで全体をつかみ、大きい品目だけ物量へ精緻化するのが定石です(個別解説)。
カテゴリ2: 資本財
定義: 購入した設備・建物・車両など資本財の製造に伴う排出。会計では減価償却しますが、排出は取得年に一括計上します。含まれる: 生産設備、建屋の建設、社用車、サーバー等。含まれない: 資本財の使用時の電力(→Scope2)。データ源: 固定資産台帳・設備投資実績。算定式の型: 「取得額×資本財原単位」。重要度: 大型投資の年に跳ね、翌年に急減するのが正常です。増減理由を注記すれば問題ありません。
カテゴリ3: 燃料・エネルギー関連活動
定義: Scope1・2に含まれない燃料・エネルギーの上流排出。燃料の採掘・精製・輸送分と、電力の送配電ロス分が典型です。含まれない: 燃料の燃焼そのもの(→Scope1)、購入電力の発電(→Scope2)。データ源: Scope1・2算定に使った燃料・電力使用量がそのまま使えます。算定式の型: 「燃料・電力使用量×上流分原単位」。重要度: どの業種でも中位以下ですが、追加のデータ収集が不要なので必ず算定します。Scope1・2が終わっていれば半日仕事です。
カテゴリ4: 輸送・配送(上流)
定義: 調達物流と、自社が費用負担する出荷物流の排出。含まれない: 自社車両の輸送(→Scope1)、顧客負担の出荷物流(→Cat.9)。データ源: 物流費、輸送記録、省エネ法の荷主報告。算定式の型: トンキロ法「貨物重量×距離×輸送手段別原単位」が主力。重要度: 小売・卸・食品で上位。詳細は個別解説へ。
カテゴリ5: 事業から出る廃棄物
定義: 事業活動で発生した廃棄物の輸送・処理に伴う排出。含まれない: 販売した製品の廃棄(→Cat.12)、自社での焼却(→Scope1)。データ源: 産廃マニフェスト(電子マニフェストなら集計が容易)、一般廃棄物の契約情報。算定式の型: 「廃棄物種類・処理方法別の重量×原単位」。重要度: 総量は小さいことが多い一方、データが取りやすく初年度から精度を出せるカテゴリです(個別解説)。
カテゴリ6: 出張
定義: 従業員の出張に伴う交通機関の排出。含まれない: 通勤(→Cat.7)、社用車(→Scope1)。データ源: 経費精算システムの旅費データ。算定式の型: 「交通費支出×交通手段別の金額あたり原単位」または「移動距離×距離あたり原単位」。簡便には従業員数×原単位の推計も認められています。重要度: 小さいカテゴリですが算定が容易で、社内の関心も高いので着手順は早めで構いません。
カテゴリ7: 雇用者の通勤
定義: 従業員の通勤に伴う排出。データ源: 通勤手当の支給データ、通勤手段のアンケート。算定式の型: 「通勤手当支給額×原単位」か「従業員数×勤務日数×都市規模別原単位」。重要度: 小。まず概算で置き、リモートワーク比率などの精緻化は後回しで十分です。
カテゴリ8: リース資産(上流)
定義: 自社が借りているリース資産の運用排出のうち、Scope1・2に含めていない分。実務メモ: 賃借オフィスの電力を自社のScope2に含めている場合(日本では一般的)、このカテゴリは「該当なし」になることが多い。組織境界の整理(基礎解説)とセットで判断し、対象外なら理由を明記します。
下流カテゴリ(9〜15)— 自社より川下の排出
カテゴリ9: 輸送・配送(下流)
定義: 販売後、他社(顧客など)の費用負担で行われる輸送・保管・小売の排出。データ源: 顧客側の物流情報が理想だが入手困難なため、販売量×代表的な流通経路のシナリオで推計するのが現実解。重要度: 消費財メーカーで中位。B2Bの直納中心なら小さく、対象外整理もありえます。
カテゴリ10: 販売した製品の加工
定義: 販売した中間製品が、顧客側で加工される際の排出。典型例: 鉄鋼・樹脂・部材メーカーの製品が顧客工場で加工される分。算定式の型: 「販売量×顧客側加工の原単位(推計)」。重要度: 素材・中間財メーカー以外は小さいことが多く、最終製品メーカーは該当なし。加工方法が多様で推計が難しい場合、算定困難の理由を付して除外する開示例も多いカテゴリです。
カテゴリ11: 販売した製品の使用
定義: 販売した製品が顧客の使用段階で出す排出。今年売った製品の生涯排出を一括計上します。データ源: 製品仕様(燃費・消費電力)×使用シナリオ。重要度: 自動車・電機・機械・エネルギー機器では最大。数字がScope3全体の7〜9割になる企業もあります。詳細は個別解説へ。
カテゴリ12: 販売した製品の廃棄
定義: 販売した製品が寿命を迎えて廃棄・処理される際の排出。データ源: 製品重量×素材構成×処理方法別原単位。実務メモ: Cat.11と同じ「今年の販売分の将来分を一括計上」の構造なので、販売データを共用してセットで算定すると効率的です。容器包装の廃棄もここに含まれます。
カテゴリ13: リース資産(下流)
定義: 自社が他社に貸しているリース資産・賃貸物件の運用排出。重要度: 不動産賃貸業・リース業の主戦場で、テナントの電力使用が該当します。貸し手・借り手のどちらのScopeに入るかは組織境界の設定次第なので、二重計上・計上漏れの整理が算定より先です。それ以外の業種は該当なしが多数派です。
カテゴリ14: フランチャイズ
定義: FC加盟店の運営に伴う排出(本部のScope1・2に含まれない分)。データ源: 加盟店のエネルギーデータ、または店舗数×標準店舗の推計。重要度: 小売・外食・サービスのFC本部のみ。加盟店からのデータ収集体制が実務の本丸になります。FC展開がなければ該当なしです。
カテゴリ15: 投融資
定義: 投融資先の排出のうち、投融資額に応じた持分相当。算定式の型: 「投融資先の排出量×帰属割合」(PCAF基準)。重要度: 銀行・保険・アセットマネジメントではこれがScope3のほぼすべて。事業会社でも大きな持分法投資があれば計上を検討します(投融資排出の解説)。
スクリーニングの実務手順 — 最初の2週間でやること
- 該当有無の仕分け(半日) — 15カテゴリを「明らかに該当なし/該当あり/要検討」に仕分ける。Cat.8・13・14・15あたりは業態で即断できます
- 粗い概算(1週間) — 該当カテゴリを会計データ×金額ベース原単位で一括概算する。精度は問わず、桁と順位だけを見ます。業種ごとの「最大カテゴリ」の傾向は当サイトの分析04章が参考になります
- 上位カテゴリの特定 — 概算の結果、通常は2〜3カテゴリで全体の8割前後を占めます。そこが精緻化の投資先です
- 算定方針書に落とす(数日) — カテゴリごとに「算定する/概算のまま/対象外(理由つき)」と算定方法を1枚にまとめる。これが翌年以降の再現性と、開示・監査対応の土台になります
- 精緻化は段階的に — 初年度は金額ベースで全体像、2年目以降に上位カテゴリを物量・一次データ(解説)へ引き上げます
なお「該当なし」「算定困難」は、理由を付して対象外と明記するのが正しい開示です。15カテゴリ全部に数字を並べることが目的ではありません。
ポイント: 15カテゴリは「全部を精緻に」ではなく「大きいところを深く、小さいところは粗く」。まず半日で該当有無を仕分け、1週間の粗い概算で上位2〜3カテゴリを特定する。多くの製造業はCat.1と11で勝負が決まる。