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投融資排出(Cat.15)とPCAF — 銀行のScope3が桁違いに大きい理由

最終更新

当データベースで銀行・保険会社のページを見ると、notesに「投融資排出(Cat.15)は別枠開示」といった注記が頻出します。金融機関のScope3を読むには、この投融資排出(financed emissions)の理解が欠かせません。この記事では、算定基準であるPCAFの考え方 — 帰属係数、アセットクラス別の算定式、データ品質スコア — と、日本の金融機関の開示実務までを掘り下げます。

金融機関の排出は「貸した先・投資した先」にある

銀行自身のScope1・2(店舗の電気など)はごく小さい一方、融資先・投資先の企業が出す排出を持分に応じて按分したものがScope3カテゴリ15(投融資)です。メガバンクではこれが自社排出の数百〜数千倍に達し、金融の気候リスクの本体はここにあります。Scope3の15カテゴリの中でCat.15だけが「金融機関の本業そのもの」を写す鏡であり、他業種のCat.15(政策投資など)とは重みがまったく違います(カテゴリの全体像は15カテゴリ解説参照)。

PCAFという共通ものさし

投融資排出の算定基準がPCAF(Partnership for Carbon Accounting Financials)のグローバルスタンダードです。世界の銀行・保険・運用会社が参加する業界イニシアチブで、GHGプロトコルに整合するCat.15算定の事実上の標準となっています。

基本の式 — 帰属係数(attribution factor)

PCAFの核心はシンプルな考え方です。

投融資排出 = 投融資先の排出量 × 帰属係数(その企業の資金調達全体のうち、自行が出している割合)

例えば、ある企業の年間排出が100万トンで、その企業の企業価値(株式時価総額+負債)のうち自行の融資・保有分が2%なら、自行に帰属する排出は2万トンです。上場企業向けでは分母にEVIC(現金を含む企業価値)、非上場企業向けでは総資本(自己資本+負債)を使う、というように、分母の取り方がアセットクラスごとに定義されています。

アセットクラス別の算定方法

アセットクラス帰属の考え方
上場株式・社債保有額 ÷ EVIC × 発行体の排出量
事業融資・非上場株式融資残高等 ÷ 総資本 × 融資先の排出量
プロジェクトファイナンス出資・融資割合 × 当該プロジェクトの排出量
商業用不動産・住宅ローン融資残高 ÷ 物件価値 × 建物のエネルギー起源排出
自動車ローン残高割合 × 車両の走行時排出
ソブリン債保有額を国の経済規模で按分 × 国の排出量

ポイントは、株式も融資も「資金を出した割合だけ、その先の排出に責任を持つ」という一貫した思想で貫かれていることです。

データ品質スコア(1〜5)

投融資先の全社が排出量を開示しているわけではないため、PCAFは数字の確からしさを5段階で開示させる仕組みを組み込みました。

スコアデータの中身
1投融資先が開示する検証済みの実測排出量
2未検証の開示排出量、または実エネルギーデータからの算定
3生産量など物理データからの推計
4売上高×業種平均原単位による推計
5資産額×業種平均による最も粗い推計

スコア4〜5は、投融資先の実開示ではなく統計からの推計です。金融機関のCat.15を読むときは、総量と同じくらい加重平均データ品質スコアに注目してください。スコアが粗いうちは、年ごとの増減が実態の変化なのかデータ精緻化の影響なのか区別できません。この構造は、事業会社のScope3カテゴリ1における一次データと二次データの関係(解説)とまったく同じです。

保険引受排出(insurance-associated emissions)

PCAFは融資・投資に加えて、保険の引受に伴う排出の算定基準も公表しています。保険会社が保険を引き受けることで事業活動を可能にしている、という考え方に基づき、保険料に応じて被保険者の排出を按分するアプローチです。損害保険会社の開示で「引受ポートフォリオの排出」という表現を見たら、これを指しています。

日本の金融機関の開示実務

当データベースの収録データでも、金融機関の開示にははっきりしたパターンがあります。

開示パターン例
Cat.15をScope3合計に含めず別枠開示メガバンク・大手保険に多い。サステナビリティレポートやTCFD/移行計画関連の資料で、セクター別(電力・エネルギー・鉄鋼など)の投融資排出と削減目標を開示する形が主流
Cat.15をScope3合計に含める一部の地方銀行など。同じ「Scope3合計」でも桁が変わる

別枠開示が悪いわけではありません。Cat.15は他カテゴリと算定の性質が違いすぎるため、セクター別に分解して削減目標(ポートフォリオの排出原単位目標など)と対で示すほうが、情報としてはむしろ充実しています。問題は横比較の落とし穴で、金融機関同士の「Scope3合計」の単純比較はほぼ無意味です。必ず「Cat.15をどう扱っているか」を注記で確認してください。当サイトでは各社のnotesにこの扱いを明記しています(データベースを見る)。

算定実務の難所

PCAFの式はシンプルですが、実務には固有の難しさがあります。

金融アライアンスの動向 — NZBAなど

投融資排出の開示が広がった推進力のひとつが、ネットゼロを掲げる金融アライアンスでした。銀行のNZBA(Net-Zero Banking Alliance)をはじめ、資産運用・保険など業態別の枠組みが、ポートフォリオ排出の算定(多くがPCAF準拠)と中間目標の設定を求めてきました。ただし近年、これらのアライアンスは参加機関の脱退や枠組みの見直しなど流動的な状況にあり、位置づけは変化しています。個別機関のコミットメント状況は、最新の開示資料での確認をおすすめします。枠組みがどうあれ、PCAFという算定基準と、規制・投資家からの開示圧力そのものは後退していない点が実務上は重要です。

事業会社にとっての意味

投融資排出は金融機関だけの話ではありません。あなたの会社の排出量は、取引銀行・株主のCat.15の構成要素です。金融機関がポートフォリオの削減目標を持つほど、排出の大きい融資先への関与(エンゲージメント)は強まり、排出データが与信や金利条件の検討材料になる流れが生まれます。大企業がサプライヤーに排出量を求める構造(解説)の金融版が、すでに動き始めているのです。

ポイント: 銀行の気候インパクトは自社ビルではなく融資ポートフォリオにある。PCAFは「出資割合で按分」という一貫した式とデータ品質スコアでそれを測る共通ものさし。金融機関のScope3を読むときは、合計値よりも先にCat.15の扱い(別枠か合算か)とデータ品質を確認する。
本記事は公的資料・一次情報に基づいています。実務では最新の基準をご確認ください。

この記事に関係する排出原単位(環境省DB)

環境省の排出原単位データベースを、Excelを開かずに検索・比較できるよう再構成したページです。

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