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なぜ大企業はサプライヤーのCO2排出量を聞き始めたのか

最終更新

「取引先から、CO2排出量に関するアンケートが届いた」——ここ数年、こうした相談が中堅・中小企業から急増しています。なぜ大企業は、サプライヤーの排出量を聞き始めたのでしょうか。この記事では、依頼する側の大企業の事情(排出構造とSBT目標の要件)、届く依頼の3つの種類、そして答える側が対応する順番を整理します。

大企業にとって、あなたの排出は「自社のScope3」

GHGプロトコルでは、企業の排出量を3つに分類します。

区分内容
Scope1自社の直接排出(燃料燃焼など)
Scope2購入した電気・熱などによる間接排出
Scope3サプライチェーン全体の間接排出(調達・輸送・製品使用・廃棄など)

多くの製造業・小売業では、排出量の大半をScope3が占めます。TANSOが収録する日本企業526社のうち、総排出量に占めるScope3の割合の中央値は93.3%です。しかも最大カテゴリが「カテゴリ1(購入した製品・サービス)」という企業が253社と最多で、次点のカテゴリ11(販売した製品の使用)120社を大きく引き離しています。業種別に見ると、食品38社のうち34社、化学43社のうち35社、電気機器では24社でカテゴリ1が最大です(業種ごとの構造は業種別ページ)。

つまり大企業が削減目標を達成するには、自社工場の省エネだけでは足りず、サプライヤーの排出削減が不可欠なのです。買い手の排出量の中心が「買ったモノ」にある以上、その中身を作っているサプライヤーに聞かなければ、数字も削減も動きません。

SBT目標が、サプライヤーへの依頼を「約束」にしている

もう一つの事情がSBT(科学的根拠に基づく削減目標)です。TANSO収録526社のうち196社(37%)がSBT認定を受けています(仕組みはSBTの基本)。SBTでは、Scope3の排出が全体に占める割合が大きい企業にはScope3の目標設定が求められ、その目標の一つの形としてサプライヤーエンゲージメント目標 — 排出量ベースで一定割合のサプライヤーに、期限までに科学的根拠に基づく削減目標を設定してもらう — が認められています。

この目標を掲げた企業にとって、サプライヤーへの依頼は善意の呼びかけではなく、認定を維持するための約束の履行です。期限が近づくほど、購買金額や排出量の大きい取引先から順に「排出量を算定しているか」「目標を設定しているか」の確認が強まります。中堅・中小企業にアンケートが届き始めた背景には、この期限の存在があります。TANSOの業種別集計では、電気機器47社のうち34社、建設34社のうち26社がSBT認定を受けており、こうした業種の大企業を主要顧客に持つサプライヤーほど、依頼は早く、繰り返し届きます。

「業界平均値」では削減努力が反映されない

従来のScope3算定は、購買金額に業界平均の排出原単位を掛ける「二次データ」方式が中心でした。しかしこの方式には構造的な問題があります。

サプライヤーがどれだけ省エネ・再エネ化を頑張っても、業界平均値で計算する限り、買い手のScope3は1グラムも減らない。

そこで重視されているのが、サプライヤー自身が算定した排出量=一次データの活用です。環境省も、一次データによってサプライヤー自身の削減努力を算定結果へ反映させることの重要性を示しており、2026年度には一次データ取得やデジタル技術を活用した算定効率化を検討するモデル事業も実施されています。買い手にとって一次データは、削減目標の進捗を数字で示す唯一の手段になりつつあります(違いの詳細は一次データと二次データ)。

届く依頼は3種類 — どれを聞かれているかを見分ける

「排出量を教えてほしい」という依頼は、中身を見ると次の3つに分かれます。求められるものと準備が異なるので、最初に見分けることが重要です。

依頼の種類聞かれていること答えるために必要なもの
(1) 算定済みかの確認Scope1・2(できればScope3)の排出量を算定しているか、その数値自社全体のScope1・2の年間排出量と算定方法
(2) 目標設定の確認SBTなどの削減目標を設定しているか、設定の予定はあるか基準年・目標年・削減率を決めた目標と、経営承認
(3) 一次データの提出納入品1単位当たり、または取引額に対応する排出量自社の排出量を製品・取引先へ配分する計算と、その前提の説明

(1)は最も多く、Scope1・2が算定できていれば答えられます。(2)はSBTのサプライヤーエンゲージメント目標を持つ買い手から届くことが多く、「設定の予定あり」と答えるだけでも評価が変わります。(3)は買い手の一次データ化の対象、つまり排出量の大きい主要サプライヤーに選ばれたことを意味します。負担は大きい一方で、自社の削減努力が買い手の数字に反映される立場でもあります。調査票の回答期限は買い手ごとに異なりますが、前年度のScope1・2の数値を年度初めのうちに固めておけば、どの種類の依頼がいつ届いても同じ数字で答えられます。

データ要求は「選別」の始まりでもある

買い手側の視点に立てば、GHGデータを出せるサプライヤーと出せないサプライヤーがいる場合、長期的にどちらとの取引を深めるかは自明です。排出量データの提供要求は、サプライヤー評価・調達戦略の一部になりつつあります。回答の有無や内容は買い手の調達部門で一覧化され、次の依頼先や取引の見直しの材料になります。

ただし、買い手が求めているのは完璧な数字ではありません。回答が空欄のサプライヤーと、粗くても算定して削減に取り組んでいるサプライヤーとでは、後者が選ばれます。買い手自身も初年度は業界平均の原単位で算定しているのが実態で、精度の要求は段階的に上がっていきます。

答える側の対応順 — 聞かれる前に準備すべきこと

  1. Scope1・2の算定 — 一次データ提供の土台。まずここから。燃料の購入量と電気の使用量に排出係数を掛ける計算で、規模が小さい企業ならExcelとTANSOのScope1・2計算機で初年度から可能です。年度ごとに同じ手順で出せる状態にします
  2. 回答フローの整備 — 誰が・どのデータで・どう答えるかを決めておく。調査票は営業部門に届き、答えは総務や環境担当が持つ、という分断が最も多いつまずきです。窓口と回答責任者を一人ずつ決め、前回の回答を保存します
  3. 削減の姿勢を示す — 完璧な数字より「算定し、削減に取り組んでいる」事実が評価される。省エネ設備の更新や再エネ電力への切り替えなど、実施済み・計画中の取り組みを一覧にしておきます
  4. (3)の依頼に備え、配分の考え方を決めておく — 自社の排出量を製品や取引先へ配分する方法(生産量按分・売上按分など)と、その前提を説明できる資料を用意します。依頼側の様式はサプライヤーへの依頼の仕方で確認できます

よくある誤解

ポイント: 大企業の排出の中心は「買ったモノ」にあり、最大カテゴリがカテゴリ1の企業は253社と最多。SBTのサプライヤーエンゲージメント目標が、取引先への依頼を期限つきの約束に変えている。届く依頼は「算定済みか」「目標設定か」「一次データ提出か」の3種類で、答える側はScope1・2の算定と回答フローの整備から順に進めればよい。
本記事は公的資料・一次情報に基づいています。実務では最新の基準をご確認ください。

この記事に関係する排出原単位(環境省DB)

環境省の排出原単位データベースを、Excelを開かずに検索・比較できるよう再構成したページです。

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