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はじめてのScope1・2算定 — 5ステップ実践ガイド

最終更新

Scope1・2の算定は、実は「請求書を集めて係数を掛ける」だけで始められます。専用システムも外部コンサルも、最初の一歩には必要ありません。中小企業でも1〜2週間あれば最初の数字が出せます。この記事では、5つのステップそれぞれを「今日から手を動かせる」レベルまで具体化します。集める書類の実名、排出係数の入手先、電卓で追える計算例まで載せているので、読みながらそのまま進めてください。

始める前に — 用意するのはExcel1枚

最初に必要な道具は表計算ソフト1枚だけです。シートの列は「拠点/排出源(燃料種)/期間/活動量/単位/排出係数/係数の出典/排出量(t-CO2)/根拠書類」の9列を作っておきます。この「根拠書類」列が、後々の第三者保証や取引先への説明で効いてきます。

Step1 範囲(バウンダリ)を決める

どの拠点・どの会社まで数えるかを最初に決めます。ここが曖昧なまま集計を始めると、来年「去年と何が違うのか」が説明できなくなります。

組織境界の正式な考え方(出資比率基準・支配力基準)はGHGプロトコル入門で解説していますが、単体算定なら気にしなくて構いません。

Step2 データを集める — 集める書類の実名

経理部門に依頼すれば、ほとんどは1年分の請求書・明細として揃います。

排出源集める書類拾う数字
電気(Scope2)電力会社の請求書・検針票(Web明細可)月ごとの使用量(kWh)。契約メニュー名と電力会社名も控える
都市ガス(Scope1)ガス会社の請求書・検針票使用量(m3)
LPG(Scope1)LPG販売店の納品書・請求書使用量(kgまたはm3)
灯油・軽油・重油(Scope1)燃料店の納品書、タンクの補給記録購入量(L)
社用車の燃料(Scope1)給油カード(ガソリンカード)の月次明細、ETC・車両管理システムの給油記録給油量(L)。車種ごとでなく全社合計でよい
フロン類(Scope1)フロン排出抑制法の点検記録・充填証明書(空調・冷凍冷蔵設備がある場合)冷媒の充填・漏えい量(kg)と冷媒の種類

この段階のコツは「月別に12行で拾う」こと。年間合計だけを転記すると、検針月ズレや拠点の抜けに気づけません。

Step3 排出係数を掛ける — 係数はどこで手に入るか

係数は公的に無料公表されているものを使います。自分で決める必要はありません。

代表的な燃料の係数はおおむね次の水準です(いずれもSHK制度の公表値。年度により微修正されるため、実際の算定では最新の公表値を確認してください)。

燃料係数の目安
ガソリン約2.32 kg-CO2/L
軽油約2.58 kg-CO2/L
灯油約2.49 kg-CO2/L
A重油約2.71 kg-CO2/L
都市ガス約2.2 kg-CO2/m3(ガス会社ごとの公表値を優先)
LPG約3.0 kg-CO2/kg

計算式は「使用量 × 係数 = 排出量」だけです。

計算例 — 架空の小さな会社で通しでやってみる

数字のイメージを持つため、仮の設例(実在の企業ではありません)で1年分を計算してみます。本社+工場1拠点、社用車5台の会社を想定します。

排出源年間活動量係数(仮)排出量
電気300,000 kWh0.000450 t-CO2/kWh135.0 t-CO2
都市ガス20,000 m32.23 kg-CO2/m344.6 t-CO2
ガソリン(社用車)12,000 L2.32 kg-CO2/L27.8 t-CO2

電卓で追える計算です。例えば都市ガスなら 20,000 m3 × 2.23 kg = 44,600 kg → 1,000で割って44.6 t。kgからtへの換算(1,000で割る)を忘れないのが最初の関門です。

フロンがある場合の計算例も示します。事務所の空調から冷媒R410A(GWP約2,090)が年間2kg漏えい・充填記録で判明したとすると、2 kg × 2,090 ÷ 1,000 = 4.2 t-CO2e。わずか2kgの冷媒が、ガソリン約1,800L分に相当する計算になります。フロンを算定から漏らせない理由が分かるはずです。

Step4 合算して単位を確認する

報告・開示の単位はt-CO2e(CO2換算トン)です。

Step5 記録して毎年続ける

「いつの・どの範囲の・どの係数で」計算したかを1枚のシートに残します。具体的には、シートの冒頭に(1)対象期間、(2)対象拠点、(3)使用した係数の出典と年度、(4)推計した箇所とその方法、の4点をメモ欄として書いておくだけで十分です。翌年から前年比が語れるようになり、これが削減目標やSBT申請の土台になります。取引先からの調査票(取引先からの排出量要求への対応)にも、このシートがそのまま回答の根拠になります。

所要時間の目安 — 2週間のモデルスケジュール

日程作業
1〜2日目バウンダリ決定、シート設計、経理・総務への書類依頼
3〜7日目請求書・明細の回収と月別転記(依頼先の対応待ちが主)
8〜9日目係数の取得(SHK制度ページ・電気事業者別係数)と計算
10日目検算(桁・単位・拠点の抜け)、前提メモの記入
11〜12日目社内報告資料の作成(Scope1/2内訳、拠点別内訳のグラフ)

2年目以降は書類の集め方が決まっているため、実働2〜3日まで短縮できます。

よくあるつまずきと対処

よくある質問

Q1. 再エネメニューを契約している拠点はどう計算しますか?

その拠点の電力には、契約メニューの調整後排出係数(再エネ100%メニューなら実質ゼロ)を使います。これがマーケット基準の計算です。あわせて地域の全国平均係数で計算したロケーション基準も出しておくと、開示水準の実務に近づきます。詳しくはマーケット基準とロケーション基準へ。

Q2. リース車両・レンタカーの燃料はScope1ですか?

自社が運行し燃料代を負担しているリース車両は、実務上Scope1に含めるのが一般的です(運用支配の考え方)。短期のレンタカーや従業員のマイカー出張はScope3(出張カテゴリ)に整理されますが、初年度のScope1・2算定では対象外として構いません。

Q3. 廃棄物や水道、通勤は数えなくていいのですか?

それらはScope3(カテゴリ5・7など)に属するため、Scope1・2算定では対象外です。まずScope1・2を固め、取引先要請や開示の必要に応じてScope3へ進むのが定石です(Scope1・2・3入門)。

Q4. 昨年と係数が変わったら、どちらで比べるべきですか?

各年度はその年度の公表係数で計算するのが原則です。電力係数の変動(電源構成の変化)で排出量が動くことはよくあるため、報告時には「使用量の増減」と「係数の増減」を分けて説明できるようにしておくと親切です。

できあがった数字をどう使うか

算定できたら、まず同業他社と並べてみましょう。当サイトのデータベースには日本企業のScope1・2実データ(詳細436社+温対法報告11,701社)が収録されており、自社の規模感を業界の中で位置づけられます。次のステップとしては、削減目標の設定、再エネ調達の検討、そして取引先から求められた場合のScope3対応(Scope1・2・3入門)へ進みます。Excel運用の限界とシステム化の目安はExcel算定の限界で扱っています。

ポイント: 算定は一度きりのイベントではなく、毎年続ける業務。初年度は「請求書12カ月分×公表係数」で9割を押さえれば合格。最初のシート設計(範囲・係数出典・推計方法の記録)がすべて。
本記事は公的資料・一次情報に基づいています。実務では最新の基準をご確認ください。

この記事に関係する排出原単位(環境省DB)

環境省の排出原単位データベースを、Excelを開かずに検索・比較できるよう再構成したページです。

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