カテゴリ2(資本財)は、自社が取得した設備・建物・車両・ソフトウェアなどの固定資産が、製造されるまでに排出したGHGを計上するカテゴリです。TANSO収録526社のうち384社が開示しており、算定自体は「税込の取得価額×資本財原単位」と単純ですが、Cat.1との境界、リースの扱い、大型投資年の変動説明でつまずく担当者が多いカテゴリでもあります。この記事では、対象範囲の切り分けから固定資産台帳を使った計算手順、数値入りの計算例、精度を上げる順番、よくある誤解までを実務の粒度で解説します。
対象範囲 — 「資産計上したもの」がCat.2
Cat.2の対象は、報告年度に自社が取得した資本財です。具体的には機械装置、建物・構築物、車両運搬具、工具器具備品、そしてソフトウェアなどの無形固定資産も含みます。GHGプロトコルは資本財を「製品の製造やサービスの提供に使われる、耐用年数の長い最終製品」と位置づけており、会計上の固定資産とほぼ重なります。
実務での切り分けは、会計処理で「費用計上か、資産計上か」を基準にするのが最も運用しやすい方法です。
| 支出の種類 | 会計処理 | カテゴリ |
|---|---|---|
| 原材料・消耗品・外注加工・サービス | 費用(仕入・経費) | Cat.1 |
| 機械装置・建物・車両・什器・ソフトウェア | 固定資産に計上 | Cat.2 |
| 少額資産(一括償却・即時費用化) | 費用 | Cat.1(方針次第でCat.2) |
| リース資産(自社が借りて使用) | 資産計上またはオフバランス | Cat.8(または算定方針でCat.2) |
同じ「モノの購入」でも、費用計上ならCat.1、資産計上ならCat.2と割り切ることで、経理データからの抽出が一本化でき、二重計上も防げます。判断が分かれる少額資産やリースは、どちらに入れるかを算定方針書に明記しておけば問題ありません。15カテゴリの全体像と合わせて、社内で境界を共有してください。
リースとの切り分け
自社が借り手として使うリース資産は、原則としてカテゴリ8(リース資産・上流)の対象で、その使用に伴うエネルギー消費を計上します。ただし、会計上ファイナンス・リースとして固定資産に計上している場合、その製造時排出をCat.2で扱う整理も見られます。どちらの整理でも「一度だけ計上し、方針を書く」ことが大切です。TANSO収録企業ではCat.8の開示は69社にとどまり、多くの企業がリース資産の使用分をScope1・2に含める整理をしています。Cat.2の範囲を決めるときにリースも一緒に整理しておくと、後の手戻りがありません。
データ源 — 固定資産台帳が起点
Cat.2の活動量は「当期に取得した固定資産の取得価額」です。取りに行く先は次の3つです。
- 固定資産台帳(経理) — 当期取得分を抽出し、資産種類(機械装置・建物・車両・ソフトウェアなど)ごとの取得価額を集計します。最も正確で、監査を受けた数字と整合します
- 設備投資予算・実績(経営企画) — 台帳の締めを待てない場合や、翌年度の見込みを出す場合に使います。予算ベースは実績との差が出るため、確定後に置き換えます
- 減価償却資産の取得価額(税務) — 償却資産の申告資料にも取得価額が並んでいます。台帳が拠点ごとに分かれている中堅企業では、こちらのほうが集計しやすいことがあります
連結で算定する場合は、子会社ごとに同じ抽出をします。建設仮勘定は、完成して本勘定に振り替えた年度に計上するか、支出年度に計上するかを決めて統一します。
計算 — 税込の取得価額×自社業種の原単位
環境省の排出原単位データベース(Ver.3.6)の資本財シート(表6)は、産業連関表の資本形成部門をもとに「百万円当たりのtCO2eq」を業種別に示しています。使い方の要点は2つです。
- 掛ける金額は消費税込みの価格 — 原単位が税込価格で作られているため、税抜の台帳残高を使うなら税込に戻します
- 原単位は「買ったモノの業種」ではなく「自社の業種(資本形成部門)」の値 — 資本形成部門とは「どの産業が投資したか」の分類です。食品メーカーが機械を買うなら、機械の原単位ではなく食料品の値を使います
Ver.3.6の値は、全体合計3.50、農林水産業4.07、食料品3.15、化学製品2.73、電子部品2.72(半導体2.81)、輸送機械3.43(乗用車3.28)tCO2eq/百万円などです。自社業種が細分類にあればそれを、なければ全体合計を使います。
計算式は次の通りです。排出量(tCO2eq) = 当期取得した固定資産の税込取得価額(百万円) × 自社業種の資本財原単位(tCO2eq/百万円)
計算例(金額は仮想の例): ある食品メーカーが、当期に新ラインの機械装置と倉庫の増築で合計500百万円(税込)の固定資産を取得したとします。
- 排出量 = 500百万円 × 3.15 tCO2eq/百万円 = 1,575 tCO2eq
化学メーカーが1,000百万円(税込)を投資した場合は、1,000 × 2.73 = 2,730 tCO2eqです。半導体メーカーが同じ1,000百万円なら2.81を使って2,810 tCO2eqになります。上に挙げた業種間の原単位の差は最大でも1.5倍程度に収まるため、結果を左右するのは業種の選択より投資額の桁です。
大型投資年の変動をどう説明するか
Cat.2は投資額に比例するため、新工場の建設年に前年の数倍へ跳ね、翌年に急減します。TANSOのデータでCat.2が最大カテゴリになっているのは10社と少数ですが、工場を建てた年に限ってCat.2が一時的にトップになる企業は珍しくありません。開示では次の3点を押さえます。
- 注記で理由を書く — 「当年度は○○工場の建設によりCat.2が増加」と一文添えるだけで、投資家や評価機関からの問い合わせは大きく減ります
- Cat.2を除いた推移も示す — SBTの進捗管理では、Cat.2の変動が全体の削減率を覆い隠すことがあります。Scope3全体と、Cat.2を除く推移を並べて出す企業が増えています
- 投資は将来の削減につながる場合が多い — 省エネ設備や再エネ設備への投資は、Cat.2を増やす一方でScope1・2を下げます。投資の中身と将来の削減効果をセットで説明すると、一時的な増加は前向きに読まれます
なお、投資額を耐用年数で按分して毎年少しずつ計上する方法は、GHGプロトコルのScope3基準では認められていません。取得年に全額を計上するのが原則です。
精度を上げる順番
金額ベースの原単位は業種平均であり、実際に買った設備の製造時排出とは差があります。精度を上げるなら、次の順番が費用対効果に優れます。
- 1年目 — 金額ベースで全額を計上 — 固定資産台帳から税込取得価額を集計し、自社業種の原単位を掛けます。まず全体の桁をつかみます
- 2年目 — 金額上位の設備を個別に見る — 取得価額の上位1〜2割の設備で総額の大半を占めることが多いので、その設備についてメーカーにLCAデータやEPD(環境製品宣言)があるか照会します。産業機械や建材ではEPDを公開するメーカーが増えています
- 3年目以降 — 一次データへの置き換え — 主要メーカーから設備1台当たりの製造時排出を受け取り、金額ベースから置き換えます。置き換えた部分と金額ベースの部分の比率を算定方針書に記録します。一次データと二次データの考え方も参照してください
建物については、建設会社が施工時の排出を算定・提供できる場合があります。大型の建設投資では、契約段階で排出データの提供を仕様に含めておくと、後から一次データ化しやすくなります。
よくある誤解
- 減価償却費で按分する — 毎年の償却費に原単位を掛ける方法は、排出が発生した年(製造時)と計上年がずれ、削減効果も見えなくなります。取得年に全額計上が原則です
- 税抜の金額に掛ける — 資本財原単位は税込価格ベースです。台帳が税抜なら税込に換算してから掛けます
- 買った設備の業種の原単位を使う — 使うのは自社(投資した側)の資本形成部門の値です
- 中古資産の扱い — 中古設備を取得した場合、製造時排出はすでに前の所有者が計上している可能性があります。中古の取得価額に新品と同じ原単位を掛けると過大になりやすいため、対象外とするか、別途整理して注記します。厳密な正解はなく、方針の明記が重要です
- 自社で製作した設備の抜け — 自社建設・自社製作の設備は、材料の購入がCat.1に入っている場合と、完成後にCat.2で計上する場合があります。どちらか一方に統一します
他社のCat.2の水準を確認したいときは、カテゴリ2のランキングで同業種の開示値と比較できます。
ポイント: Cat.2は「資産計上した固定資産の税込取得価額×自社業種の資本財原単位」で算定でき、データ源は固定資産台帳です。Cat.1との境界は費用計上か資産計上かで割り切り、リースと中古資産は方針を明記します。大型投資年の変動は注記とCat.2を除く推移で説明し、精度向上は金額上位の設備からメーカーのLCA・EPDに置き換えていきます。