カテゴリ6(出張)とカテゴリ7(通勤)は、従業員の移動に伴う排出を計上するカテゴリです。排出量の規模はScope3全体から見れば小さいことが多い一方、TANSO収録526社のうちCat.6は379社、Cat.7は377社が開示しており、「まず出せるカテゴリ」として算定初年度から取り組まれます。この記事では、対象範囲、従業員数ベース・交通費支給額ベース・人キロベースの3段階の算定方法と計算例、在宅勤務の扱い、経理・人事のどのデータを使うか、よくある誤解、削減施策との接続までを解説します。
対象範囲 — Cat.6は出張、Cat.7は通勤
| カテゴリ | 対象 | 含まれるもの | 含まれないもの |
|---|---|---|---|
| Cat.6 出張 | 業務上の移動 | 航空・鉄道・バス・タクシー・レンタカー・宿泊 | 社有車の燃料(Scope1)、通勤(Cat.7) |
| Cat.7 通勤 | 自宅と勤務地の往復 | 電車・バス・自家用車での通勤、任意で在宅勤務の電力 | 出張(Cat.6)、社有送迎バスの燃料(Scope1) |
社有車での出張や送迎バスは燃料がScope1に入るため、Cat.6・7からは外します。宿泊はCat.6に含めるのが一般的で、環境省データベースにも宿泊の原単位(表12)が用意されています。派遣社員や常駐の協力会社社員を含めるかは、Scope1・2の組織境界と揃えて方針を決めます。
3段階の算定方法
Cat.6・7は、使うデータによって3段階の精度があります。初年度は①で桁をつかみ、翌年度以降②③に上げるのが標準的な進め方です。
①従業員数ベース — 人数だけで出せる
環境省の排出原単位データベース Ver.3.6 には、従業員1人当たりの出張原単位(表13)として0.130 tCO2/人・年が収録されています。通勤は表14に、勤務形態(オフィス・工場)×都市区分の1人1日当たりの原単位があります。
通勤原単位(kgCO2/人・日)は、オフィスが大都市0.98 / 中都市1.54 / 小都市A1.84 / 小都市B1.59 / 町村1.57、工場が大都市1.22 / 中都市1.89 / 小都市A1.92 / 小都市B1.81 / 町村1.84です。都市区分は、大都市=政令市・東京都区部、中都市=人口15万以上、小都市A=5万〜15万、小都市B=5万未満です。大都市のオフィスの値が最も小さいのは、鉄道通勤の比率が高いためです。
計算例(従業員数・出勤日数は仮想の例): 東京都区部のオフィスに300人、地方の中都市の工場に200人が勤務し、年間出勤日数を各240日とします。
- Cat.6 出張 = 500人 × 0.130 tCO2/人・年 = 65 tCO2
- Cat.7 通勤(オフィス) = 300人 × 0.98 kgCO2/人・日 × 240日 = 70,560 kgCO2 = 約70.6 tCO2
- Cat.7 通勤(工場) = 200人 × 1.89 kgCO2/人・日 × 240日 = 90,720 kgCO2 = 約90.7 tCO2
- Cat.7 合計 = 約161 tCO2
この方法の弱点は、出張を減らしても人数が変わらなければ数字が動かないことです。削減施策の効果を示すには②以降が必要です。
②交通費支給額ベース — 経費精算データを使う
経費精算システムから交通手段別の支給額を集計し、交通費支給額当たりの原単位(表11)を掛けます。Ver.3.6の値(kgCO2/円)は、航空が国内線0.0053・国際線0.0071、鉄道0.0019、船舶0.0502、バス0.0047、タクシー0.0033です。宿泊は泊数×31.5 kgCO2/泊で加えます。
出張の日数が分かる場合は、出張1日当たりの原単位(全平均0.0296、国内日帰り0.0301、国内宿泊0.0273、海外0.0452 tCO2/人・日)を使う方法もあります。出張申請の日数を国内日帰り・国内宿泊・海外に分けて集計できる企業向けです。
計算例(金額・泊数は仮想の例): 年間の出張旅費のうち、国内線航空が10,000,000円、鉄道が20,000,000円、タクシーが3,000,000円、宿泊が500泊だったとします。
- 航空(国内線) = 10,000,000円 × 0.0053 = 53,000 kgCO2 = 53.0 tCO2
- 鉄道 = 20,000,000円 × 0.0019 = 38,000 kgCO2 = 38.0 tCO2
- タクシー = 3,000,000円 × 0.0033 = 9,900 kgCO2 = 9.9 tCO2
- 宿泊 = 500泊 × 31.5 kgCO2/泊 = 15,750 kgCO2 = 15.8 tCO2
- Cat.6 合計 = 約116.7 tCO2
同じ金額でも、国内線航空の原単位は鉄道の2.8倍です。出張のうち航空の比率が高い企業では、①の従業員数ベースより大きく出ることがよくあります。逆に鉄道中心なら小さく出ます。①と②で数字が違うのは当然で、どちらが正しいかではなく「自社の実態に近いのはどちらか」で選びます。
③人キロベース — 出張申請・通勤経路データを使う
出張申請システムの区間データ(出発地・目的地・交通手段)や、人事の通勤経路届から人キロを集計し、旅客人キロ当たりの原単位(表10)を掛けます。原単位の最新値は環境省データベースを参照してください。
計算式: 排出量 = 移動人数 × 区間距離(km) × 交通手段別の人キロ原単位 を、区間ごとに計算して合計
通勤では、通勤手当の申請時に登録される経路(駅間・交通手段)がそのまま活動量になります。人事システムから「交通手段・区間距離」を出力し、出勤日数を掛ければ人キロが出ます。マイカー通勤者は、距離と燃費から燃料使用量に直し、燃料の排出係数を掛ける方法もとれます。
③は削減施策(航空から鉄道への切り替え、出張回数の削減)がそのまま数字に反映されるため、目標管理をするならここまで上げる価値があります。
在宅勤務の扱い
在宅勤務が定着した企業では、「在宅日は通勤しないので通勤排出が減るが、自宅の電力は増える」という構造になります。GHGプロトコルでは、在宅勤務中のエネルギー消費をCat.7に含めるかどうかは任意です。含める場合は、在宅日数×1日当たりの想定電力使用量×電力の排出係数で推計します。
実務での整理は次の通りです。
- 通勤分は、出勤日数を勤怠データの実績に置き換えれば在宅の効果が自然に反映されます。①の方法でも「年間出勤日数」を実績値にするだけで精度が上がります
- 在宅の電力を含めるかどうかは方針を決めて明記します。含めない場合も「在宅勤務時のエネルギーは含まない」と注記すれば、比較可能性は保てます
- 含める場合は、前提(1日当たりの電力・空調の想定)を算定方針書に書き、毎年同じ前提を使います
経理・人事のどのデータを使うか
| 方法 | データ | 所管部門 |
|---|---|---|
| ①従業員数ベース | 従業員数(拠点別・勤務形態別)、拠点所在地 | 人事 |
| ②交通費支給額ベース | 経費精算の旅費交通費(交通手段別)、宿泊費(泊数) | 経理・経費精算システム管理者 |
| ②出張日数ベース | 出張申請の日数(国内日帰り・国内宿泊・海外) | 総務・人事 |
| ③人キロベース | 出張申請の区間、通勤経路届、勤怠の出勤日数 | 総務・人事 |
経費精算システムで「交通手段」が費目として分かれていれば、②はすぐに出せます。分かれていない場合、初年度は「旅費交通費の総額を交通手段別に按分する」か、①で代替します。翌年度に向けて、経費精算の費目に「航空(国内・国際)・鉄道・タクシー・バス」の区分を追加しておくと、以降の算定が一気に楽になります。法人カードや出張手配サービスを使っている企業では、利用明細に交通手段と区間が付いていることが多く、③まで一足飛びに行けることもあります。
よくある誤解
- 通勤手当に交通費支給額原単位を掛ける — 表11の交通費支給額原単位は出張(Cat.6)向けの値で、通勤手当には使いません。通勤は表14の「人・日」当たりの原単位か、③の人キロで計算します
- ①と②を足してしまう — 従業員数ベースの0.130 tCO2/人・年は出張全体の平均値です。これに②の交通費ベースを上乗せすると二重計上になります。どちらか一方を選びます
- 社有車の出張を含める — 社有車の燃料はScope1です。レンタカーはCat.6に含めます
- 宿泊の抜け — 交通費だけで計算して宿泊を落とすケースが目立ちます。出張旅費の宿泊費から泊数を出し、31.5 kgCO2/泊を掛けます
- 海外出張の航空を国内線の値で計算する — 国際線は0.0071で、国内線0.0053より大きい値です。国際線の支給額を分けて集計します
削減施策との接続
Cat.6・7は、Scope3の中では自社の裁量で動かせる数少ないカテゴリです。算定方法を②③に上げておくと、次の施策の効果が数字で示せます。
- オンライン会議の標準化 — 出張規程で「日帰り圏の社内会議はオンラインを原則」と定めると、出張回数と旅費が同時に下がります。②の方法なら旅費の減少がそのまま排出減として出ます
- 出張規程での交通手段の指定 — 一定距離までは鉄道優先とするルールは、航空(0.0053)から鉄道(0.0019)への置き換えとして効きます
- 通勤の見直し — 在宅勤務日の設定、マイカー通勤から公共交通への転換支援、サテライトオフィスなど。出勤日数の実績を勤怠から取っていれば効果が測れます
これらは旅費・通勤手当のコスト削減と同じ方向を向くため、総務・人事の既存施策に排出量の指標を添える形で進めるのが現実的です。他社の水準はカテゴリ6とカテゴリ7のランキングで確認できます。
ポイント: Cat.6・7は、①従業員数ベース(出張0.130 tCO2/人・年、通勤は勤務形態×都市区分の値)で初年度に桁をつかみ、②経費精算の交通手段別支給額、③出張申請・通勤経路の人キロへと精度を上げていきます。通勤手当に交通費支給額原単位を使わない、宿泊を落とさない、①と②を足さないが要注意点です。在宅勤務の電力は任意で方針を明記し、②③に上げればオンライン会議や出張規程の効果を数字で示せます。