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温対法の全国データでサプライヤーの排出量を推定する

最終更新

「サプライヤーにScope1・2を聞いても、まだ算定していないと言われる」 — Cat.1の一次データ化で最初にぶつかる壁です。実は、日本国内の一定規模以上の事業者については、国に報告した温室効果ガス排出量が温対法に基づいて公表されており、「算定していない」と言うサプライヤーの排出量も公表値で当たりをつけられることがあります。この記事では、温対法SHK制度の公表データとは何か、統合報告書の連結値と何が違うか、サプライチェーン管理での4つの使い道と限界、TANSOの全国データ(11,701社)での探し方、そして一次データ依頼への接続までを解説します。

温対法SHK制度の公表データとは

地球温暖化対策推進法(温対法)には「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」(SHK制度)があり、一定規模以上のエネルギーを使用する事業者や温室効果ガスを排出する事業者は特定排出者として、毎年度の排出量を国に報告する義務があります。報告された排出量は国が集計し、事業者名とともに公表されます。日本の制度体系の全体像はこちらの記事を参照してください。

この公表データの性格を整理すると次の通りです。

統合報告書の連結値との違い

大手企業が統合報告書やサステナビリティレポートで開示するScope1・2は、多くが連結ベース・グローバルの値です。海外工場も子会社も合算されています。一方の温対法公表値は単体・国内です。同じ企業でも、この2つの数字は一致しません。

温対法の公表値統合報告書の開示値
範囲Scope1+2相当Scope1・2・3
バウンダリ法人単体・国内連結・グローバルが多い
算定方法法定の係数・方法GHGプロトコル準拠、係数は各社が選択
対象企業規模要件を満たす特定排出者(非上場・中堅企業も含む)開示している企業のみ(大手中心)
鮮度公表までのタイムラグあり直近年度

サプライチェーン管理にとって重要なのは「対象企業」の行です。統合報告書を出すのは大手が中心ですが、温対法の公表値には自主開示をしていない中堅企業や非上場企業が多数含まれます。取引先の多くがこの層である企業ほど、この公表データの価値は大きくなります。

4つの使い道

1. サプライヤーがScope1・2を未算定でも当たりをつける

サプライヤーに「排出量を教えてほしい」と依頼して「算定していない」と返ってきても、そのサプライヤーが特定排出者なら国への報告値があります。公表値はそのサプライヤーの国内Scope1+2の全社値なので、自社向けの排出量にするには按分が必要です。基本式は「サプライヤーの公表排出量 × 自社の購入額 ÷ サプライヤーの売上高」です。産業連関表の平均原単位で出した二次データより、そのサプライヤー固有の値に一歩近づきます。ただしこれはサプライヤーのScope1・2だけで、サプライヤーの上流(相手のScope3)は含まれない点に注意が必要です。一次データと二次データの位置づけはこちらで整理しています。

2. 取引先の規模感の把握

公表値を見れば、そのサプライヤーが排出量の面でどのくらいの規模か(業種内で上位なのか、中央値付近なのか)が分かります。排出削減の協働を持ちかけるとき、「相手の排出構造を把握したうえで話す」ことができるかどうかで、会話の質が変わります。

3. 一次データ依頼の優先順位づけ

すべてのサプライヤーに一次データを依頼するのは現実的ではありません。購入額が大きいサプライヤーの中で、公表排出量も大きい先から優先して依頼すると、Cat.1の精度向上に効く順番になります。逆に、購入額が大きくても公表排出量が小さい(商社・サービス業など)先は、後回しにしても総量への影響は小さいと判断できます。依頼の進め方はサプライヤーへの依頼の仕方を参照してください。

4. 自社数値の妥当性チェック

自社が特定排出者であれば、自社の公表値もあります。自社で算定したScope1・2(単体・国内分)と温対法の報告値が大きくずれていれば、係数や範囲の取り違えを疑うきっかけになります。また、同業他社の公表値と自社を並べれば、売上や生産量当たりの原単位で見た自社の位置が分かり、削減目標の妥当性を検討する材料になります。

限界 — 使うときに前提にすること

TANSOでの探し方

TANSOの全国データ(温対法)は、公表された特定排出者11,701社の排出量を検索・比較できるようにしたものです。使い方は次の通りです。

  1. 事業者名で検索する — サプライヤーの法人名で検索します。連結子会社が別名義で報告している場合は、子会社名でも探してください
  2. 都道府県別・業種別ランキングで周辺を見る — たとえば東京都のランキングのように、都道府県別に排出量の大きい事業者が並びます。業種別も同様で、自社の主要サプライヤーが属する業種の上位を確認すると、依頼の優先順位づけに使えます
  3. 事業者ページで位置を確認する — 各事業者のページでは、排出量に加えて業種内の順位と、業種の中央値との比較が見られます。「同業の中で排出が多い先か少ない先か」がひと目で分かります
  4. 企業ページとの紐づけを使う — TANSOの企業データ(統合報告書ベースのScope1・2・3)と温対法の事業者データは389社で紐づいています。連結の開示値と国内単体の公表値を並べて、バウンダリの違いによる差を実際に確認できます

一次データ依頼への接続

公表データはあくまで「一次データが取れるまでのつなぎ」であり、最終的にはサプライヤーから製品単位の排出量(一次データ)を受け取る形を目指します。公表データを使った準備が、その依頼を通りやすくします。

  1. 公表値で主要サプライヤーの規模感をつかみ、購入額と掛け合わせて依頼先の優先順位をつける
  2. 依頼文には「貴社が温対法で報告されている排出量を参考にしています。自社向け分をより正確にするため、製品当たりの排出量をご提供いただけますか」と書く。相手が「算定していない」とは言えない状態から会話が始まります
  3. 返ってきた一次データは、公表値からの按分値と比較して妥当性を確認する。桁が違えば、按分の分母や製品範囲の認識ずれを疑う
  4. 一次データが取れた先は置き換え、取れない先は公表値の按分または二次データを使い続ける。どの先がどの方法かを一覧にして算定方針書に残す

Scope3の精度は「一次データの割合」で語られがちですが、その手前にある「公表データで当たりをつける」段階を挟むだけで、依頼先の選定と受け取った数値の検証の両方が現実的になります。

ポイント: 温対法の公表データは、特定排出者が国に報告したScope1+2相当の排出量で、単体・国内が中心、最新は2023年度分。統合報告書を出さない中堅・非上場サプライヤーの排出規模をつかめる点が最大の価値で、按分による推定、依頼の優先順位づけ、自社数値の妥当性チェックに使える。Scope3は含まず年度ずれもあるため、一次データが取れるまでのつなぎとして前提を記録して使う。
本記事は公的資料・一次情報に基づいています。実務では最新の基準をご確認ください。

この記事に関係する排出原単位(環境省DB)

環境省の排出原単位データベースを、Excelを開かずに検索・比較できるよう再構成したページです。

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